今年も誰に頼まれるでもなく都度リストアップした音楽作品から個人的に重要度の高いものを列挙させていただきました。今まで避けてましたが自分の作品も対象に入れました。
2022
- Takayuki Niwano
- エレクトロニック
- ¥1833
music.apple.com2022年は自分の作品リリースで幕を開けた。元旦に「2022」というアルバムを出した(厳密には業者の都合で発売日が大
晦日になってしまったが)。これまでの音色やリズムから発想を広げるような制作手順とは違って頭に浮かんだメロディやコードなどから1パート、1小節ずつ打ち込んでいったようなアルバム。おそらく自身の作品シリーズ"ANOTA MUSICAL PIECES"をはじめいろいろ作り散らかしたコンセプトなどを自分なりに纏めてみたかったのだろう。そこにはトータスなどのポストロックから現代ジャズ、
砂原良徳からOneohtrix Point Never、
池田亮司からshotahiramaなど90年代後半から
テン年代に感銘を受けた音楽からの影響も主に盛り込まれているが、更にマーティン
デニーやレス
バクスターなどの
イージーリスニング、ガーションキングスレイやディックラージメーカーなどのアーリーエレクトロニクス、ひいてはス
ティーヴ
ライヒやフィリップグラスなどのミニマルミュージックにその原典を見ることも出来る。
music.apple.com1月はBURIALの復帰作「ANTIDAWN EP」が話題となった。私は
ダブステップに対して
ドラムンベース同様に否定的な態度をとっていたので彼の作品にはあまり接してこなかったが今作は
ダブステップ特有のビートが取り払われていて、その静逸なアンビエンスには目(耳)を見張るものがあった(同時にチリチリとなっているクラックルノイズをビートと見なすことも可能か)。おかげでこれまでの不理解も解消し初期の作品も聞き返すことができた。
▶︎W - Borisのアルバム - Apple Music
▶︎Eureka - ジム・オルークのアルバム - Apple Music
同月リリースのクロマニヨンズ「SIX KICKS ROCK&ROLL」、Boris「W」は共にアートワーク大賞(というわけでジャケット画像を並べてみた)。ここで挙げる作品中では唯一のフィジカルオンリーであるクロマニヨンズは今作もモノラルミックス。これについては過去に何度か言及しているがその手法が私とクロマニヨンズを繋いでいると言っても過言ではない永遠の研究課題だ。「W」のカバーイラストは漫画家友沢ミミヨの御息女。友沢ミミヨといえばジムオルーク「ユリイカ」のカバーイラストを思い出す方も少なくないだろうが、その「ユリイカ」をはじめドラックシティからリリースされた諸作が今年の3月あたりからストリーミングで聴けるようになった。これも私にとっては大きなニュースである(知ったのは11月)。
music.apple.commusic.apple.com2月にリストアップしたのはLiftedの「3」とSpringtimeの「Night Raver EP (feat. Gareth Liddiard, Jim White & Chris Abrahams)」だ。前者はCo Laとして活動する
Matt Papichが参加するコラボユニット(他のメンバーも有名らしいけどよく知りません)の3作目、後者はThe NecksのChris Abrahamsが参加するオーストラリア勢(こちらもクリス以外はあまり知りません)トリオ。対照的だがどちらも良いセッション作品なのでわりとよく聴いていた。
music.apple.com3月に気になったのはNahi Mittiという謎のアーティストだ。明らかに
ダブステップやベースミュージック系のビートを基調にはしているがあまりそれらが主張してこない、なんだかモヤッとしたパッド系の音や簡素なシンセ音がサイレンのように鳴る。音色はOneohtrix Point Never「R Plus Seven」に近いかもしれない。覆面アーティストのような体裁なので素性は分からないがこういうのは匿名性も作品の価値観に影響してしまうのでやはり現代的と言えるのだろう。もしかしたら
アバターでも拵えてどこかの
メタバースにでも入り込めばこの作品に関する共有材料でごった返す場所にたどり着けるのかもしれない。
music.apple.com元旦にリリースした「2022」と同時進行で私が制作していたのは"Dance & Living Music for Living Dead"という新作シリーズで、これはドラムマシンのキックと
プラグインエフェクトによるダブ処理のみでゾンビを踊らせるというコンセプトの作品群だがその延長で作られた番外編「Demiboy + Demigirl : Variations On Dance and Living Music for Living More」は左記の「2022」を差し置いてでも今年のベストアルバムに推したい力作だと思う。手法はシリーズを踏襲しているがその加工を更に推し進めて様々なブリープ音や
グリッチなどで構成したいわば
フェイクスイーツのような楽曲集になった。
music.apple.commusic.apple.comRikka以降ハードコア化が止まない
Vladislav Delayも7月に素通り出来ない新作をリリース。10月には別名義で更に激化したアルバムをリリース。マツコデラックスならぬ
リパッティデラックスは
Vladislav Delayとして活動するSasu Ripattiの新名義。Rikka以降の神がかり的なハードコア
サウンドはここでも好転(高速回転)した、というか一体彼に何が起こっているのか(彼は何に怒っているのか)分からないが、とにかく凄い自信としか言いようがない。90年代レイブカルチャーを文字通り踏みつけて襲う(踏襲)ジュークならぬジョーク
ハードミニマル。
music.apple.com8月にリリースされたPanda Bear & Sonic Boomの「Reset」はそれまでの二人の共作を軽く凌駕し、あらぬ方向へ行ってしまったアニマルコレクティブへの憂いさえも解消してしまうほどの快作だった。まさにタイトル通り何もかもご破算になった。今年は一枚選べと言われたら私はこれにする。
music.apple.comそしてベストアルバム選出作を纏めようとしていた時期にリリースされたのが
オリジナルラブの新作だ。90年代にソロユニット化し、
ゼロ年代以降は段階を経て日本大衆音楽の象徴と化していった
田島貴男の
オリジナルラブは音楽的に精神的に肉体的にそして
田島貴男的に紆余曲折を包み隠さずその作品やライブパフォーマンスに投影し孤独と和解をくりかえし(ソロユニットとしての
オリジナルラブは2011年発表のドラムなどもソフト音源を使用しほぼ自身の演奏とミックスにマスタリングまで行った完全なる自作自演作「白熱」でピークを迎えたと思われる)ながらも2022年の暮れに等身大にして現状最高な作品をリリースした。先行配信された表題曲"Music, Dance&Love"を聴いた時、私は著名な歌手が歌うDon't Stop Music的な歌詞に拒否反応を示し途中で音楽を止めてしまったのだが、今アルバム1曲目の"侵略"からの流れでこの曲を聴いた瞬間に印象が一転した(同時に己の表面的な耳アンテナをへし折った)。"侵略"はいわゆる
反戦ソングだった、つまり、
侵略戦争を止めろ、音楽を止めることはできない、明快で軽快なこの対比がこのアルバムの導入であった。それを知ればイントロの歪んだギターの刻み音や腰の入ったクラップ&ブギービートは必然と思える。最高としか言いようがない。
更に12月に入って
池田亮司の新作が出た。これまでのData三部作を踏襲し、
ダムタイプを補完する舞台作品「superposition」(更に付け加えれば2019年に
杉本博司が演出したバレエ作品「鷹の井戸」への楽曲提供)のような物語性も孕む音楽的な完成度は言わずもがな、
砂原良徳「Liminal」、COH「Retro-2038」、
Atom™️「HD」やCarsten NicolaiとOlaf BenderによるエレクトロユニットDiamond Versionの諸作など
テン年代前半のエレクトロ作品に見られる
クラフトワークの一つのコンセプトとも言える電子音とファンクビートの融合を更に
グリッチやビット操作などによって推し進めるような試み(「Liminal」は厳密にはそのドイツ周辺の電子音響ムーブメントに接近したもので結果的にこの流れでは先陣を切っていた。後者の二組については
如実にクラフトワーク的な曲調を意識していた。なぜこのような兆候が見られたのか推察してみるに、2009年の
アウトバーン以降の全作品
リマスタリング再リリース、また2012年から各アルバムを全曲演奏するライブを世界各地で行うなどの
クラフトワークブームが影響しているのではないだろうか。実際にCarsten Nicolaiはインタビューでこの時期に
クラフトワークのライブを観てそれまでの不理解が解けてファンになったと語っている。)や80〜90年代インダストリアルを感じさせるようなドラミングによる展開なども却って新鮮味を感じた。と書いてから今作にはデビュー前を含め様々な時期の音源が使用されていることを知り、そりゃこうなるわなと柏手一つ。
ここ最近の音質事情やエディット、補正の高度化について個人的には何か
固定観念に囚われてしまったようで少々耳を毒されているような錯覚もある。その正体はソフトウェアによるものなのか、はたまた単なる流行に対するアレルギー反応か(何でもかんでもサイドチェインを効かせたビートが気持ちいいという短絡的なノウハウは、少し前までのオートチューン氾濫にも似ていて萎える)、とにかく音像処理の形骸化の理由は多々あるだろうが、少なくともここに挙げた作品にはそのような流行や基準では測れない発想や探究心が感じられる。むしろその煽りに影響を受けたのは誰よりもこの私、自分の作品のミックスで路頭に迷った挙句に最初の設定に戻るなんていうことも少なくは無かった。10月末からリリースを始めたANOTA名義による4枚のEPはそのような葛藤の中で一進一退を繰り返しながら何とか完成に行き着いた作品であるが、たいして知識も無いのに闇雲に弄くり回して無駄な時間を浪費しただけかもしれない。そんなに悠々と制作していられる猶予もあと幾日も無いのだが、切羽詰まった状況でもこれまでの音楽体験や自分が作った音楽に日々感謝しながら残された時間をアノタと大切に紡いで行こうと思う。ということで年の瀬はアノタを是非聞いてお過ごしいただけたら幸いである。という凡庸な告知への壮大な前振り記事という
稲村ジェーン的なオチで今年は締めたいと思う。来年も生きていたらよろしくお願いします。
◯その他のピックアップ
▶︎Serwed III - Serwedのアルバム - Apple Music
▶︎Plonk - Huerco S.のアルバム - Apple Music
▶︎You Belong There - ダニエル・ロッセンのアルバム - Apple Music
▶︎Witches Brew - FZR Sethi & Énergie Noireのアルバム - Apple Music
▶︎The Bridge to Total Freedom - THE OT X-TETのアルバム - Apple Music
▶︎Regards/Ukłony dla Bogusław Schaeffer - マトモスのアルバム - Apple Music
▶︎物語のように - 坂本慎太郎のアルバム - Apple Music
▶︎Magnetic Ghost Orchestra - Magnetic Ghost Orchestraのアルバム - Apple Music
▶︎Psychosynthesis - Greg Foatのアルバム - Apple Music
▶︎アイランド - 明日の叙景のアルバム - Apple Music
▶︎https://music.apple.com/jp/album/white-girl-wasted/1639789153
▶︎https://music.apple.com/jp/album/between-all-things/1635585632
▶︎Shebang - Oren Ambarchiのアルバム - Apple Music
▶︎Weather Alive - べス・オートンのアルバム - Apple Music
▶︎At Scaramouche - Shabason & Krgovich, ジョゼフ・シャバソン & Nicholas Krgovichのアルバム - Apple Music
▶︎from JAPAN 3 - Tempalayのアルバム - Apple Music
▶︎FOREVERANDEVERNOMORE - ブライアン・イーノのアルバム - Apple Music
▶︎Paste - Moinのアルバム - Apple Music
▶︎Skal_Ghost (feat. Arovane & Taylor Deupree) - Arovane & Taylor Deupreeのアルバム - Apple Music
▶︎Matter - Noémi Büchiのアルバム - Apple Music