こんにちわ。春過ぎから発作的に新作シリーズの制作に没頭、この7ヶ月の期間で60曲(10時間半)リリースという自己最高の作曲ペースを叩き出すに至ったレーベル代表・庭野です。という前置きからお察しの通り、聞くよりも作る方に時間と労力を使ったという逃げ口上を用意しても尚、私の耳を更新させてくれた数多の新作の中でも特に私の制作にも影響を与えたと言っても過言ではない作品をここに選出しておきたいと思います。さて、先述の新作シリーズも予定通りに年内で治めることが出来ましたので、世間の音楽も早めに総括しつつ、(そういえば)レーベル10周年という節目を一人寂しく噛み締めながら、来年も生き存えるための算段をしておきたいと思います。
#1 川染喜弘 - 街live19 at銀座 楽器店
今年初めにツイッター上でアップロードされた先鋭音楽、現代美術において最も重要なパフォーマー川染喜弘の楽器店での即興ライブ動画。試奏用に展示されたシンセサイザーのデモシーケンス やプリセット音をまるで自分がプログラミングしたものであるかのように操作し見事な音響パフォーマンスに昇華させている。この終わりのないライブ演奏にピリオドを打つのは彼がアーティストであることを知らない無知を恐れぬ楽器店のスタッフか警備員であるというその光景を含めて現代アートとしても説得力を十分に備えたパブリックアートである。川染喜弘 街live19 at銀座 楽器店
— 川染喜弘 12/1魔ゼルな規犬企画 (@y_kawasome) 2020年2月5日
無限迷宮(ラビリンス)のなかで 永遠(とわ)の 瞬間(とき)という運命(うんめい)の現在(いま)をシンセサイザー(じくうのねいろ)で
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出演、2/23魔ゼルな規犬企画に向けて! https://t.co/wWFJSIfIJV
#2 Speaker Music - Black Nationalist Sonic Weaponry (Planet μ)
90年代からシーンを牽引してきたマイクパラディナス主宰のプラネットミューは常にその時代の新興ビートに共鳴し、多くの重要作をリリースしてきたが、とりわけ2012年にリリースされたRudi ZygadloのTragicomediesと今作は、それまで同レーベルでピックアップしてきた流行型のビートを再解釈し、そのまま終息させてしまうようなパワーさえ感じた。
このアルバムのリンクを貼ろうとして気付いたのだが、どうやらCDでの販売は無いようだ(アナログを数量限定で販売)。昨今の音楽流通事情を考えるとデータオンリーは当然の選択なのだが、それでもここまでの老舗レーベルがそういう方法をとっているのを見ると多少慄いてしまう。さて、来年どこから日本盤が出るだろうか。。
niwanokns.hatenablog.com
#3 Vladislav Delay - Rakka (Cosmo Rhythmatic)
レビューは↑のブログを参照ください。
#4 Oval - SCIS (Thrill Jockey)
個人的には、彼のこれまでの間接的な表現技法の完成形に至るまでの思考や志向そして施行を自ら少しずつ剥ぎ取って行くような、まだ生乾きの瘡蓋を剥がすような嫌らしい痛みを感じてしまった。
その痛みの量に比して音色に厚みや歪みが加算されているようで、聴く側も無傷ではいられない。
可愛らしいイラストをあしらったジャケットデザインが逆説的に響く。
#5 Arca - @@@@@ (XL Recordings)
レビューは↑を参照ください。
1時間超のシングルEP。その後に普通に出たアルバムは合計38分。こういう斬新な概念も含めてバリアフリーミュージック。
#6 Carl Stone - Au Jus / The Jugged Hare (Unseen Worlds)
#7 Jon Hassell - Seeing Through Sound (Pentimento Volume Two) (NDEYA)
レビューは↑を参照ください。
#8 Against All Logic - 2017-2019 (OTHER PEOPLE)
レビューは↑を参照ください。
#9 The Beneficiaries - The Crystal City is Alive (AXIS)
冒頭からの女性詩人によるポエトリーリーディング、アフロ的なリズムアプローチ、デトロイトテクノと現代アートの接続などの観点から左記のSpeaker Musicの重要作とも呼応しているようだ。革新性という言い方はカッコつけ過ぎているかもしれない、要は音が若々しいということだ。
#10 さかいゆう - Touch The World (newborder recordings / UMJ)
#11 The Necks - Three (Fish Of Milk)
thenecksau.bandcamp.com
去年のアンダーワールドとのコラボレーションには驚かされたが、今年も彼らの新しいセッションが聴けるということが何よりも歓びである。
#12 Jeff Parker - Suite for Max Brown
#13 shakleton & Waclaw Zimpel - Primal Forms (Cosmo Rhythmatic)
#14 恩田晃 - Cassette Memories 1 2 3 (ROOM40) Reissue
#15 Kate NV - Room for the Moon (Rvng Intl.)
#16 Drøne - The Stilling (Pomperipossa Records)
#17 Masayasu Tzboguchi & Hiroki Chiba - Soundscape of Electronic and Acoustic (Self Release)
masayasutzboguchi.bandcamp.com
1月のライブを録音した音源。開催したライブハウスへの基金を募る目的での配信リリース。アコースティック演奏とエレクトロニクスの融け合いも見事ながらフィールドレコーディングらしき音も相まって豊穣な音響空間が即興を交えたライブ演奏の中で構築されている。
#18 踊ってばかりの国 - 私は月には行かないだろう (FIVELATER)
#19 Triptykon - Requiem (Century Media Records)
#20 Fiona Apple - Fetch the Bolt Cutters (Epic, Clean Slate)
#21 Andy Shauf - The Neon Skyline (Anti-)
#22 Matmos - THE CONSUMING FLAME: OPEN EXERCISES IN GROUP FORM (Thrill Jockey)
レビューは↑を参照ください。
実績と人脈があれば絶対やってみたいですね、こういう企画アルバムは。
#23 shotahirama - Stay on the Light (SIGNAL DADA)
レビューは↑のブログを参照ください。
- 総評
ベストディスクと言っておきながら今年の新作で盤を買ったのは、サブスクとCDのリリース日をずらしていたOvalのSCISとサブスクで聴けないThe NecksのThreeのみである。かくいう自分も去年からフィジカルリリースを止め、今年はBandcamp限定でのリリースとなった。このような進捗状況を省みたところで膨大な音楽歴史を引き合いにしてしまえば、差し詰め音楽の伝達方法など移ろいゆくのが世の常だという事実が浮かび上がるだけなのだが、そもそも唯一形のない芸術とも言える音楽がこのように形を変えて進化していくということに格別な思いを馳せるのもまた一興である。来年以降はふつふつと21世紀の音楽を予感させるようなものが立ち現れては消えるようなもどかしい時期に入るだろう。その中で20世紀の音楽はあらゆる観点で補完され、既成と未成で膨れ上がった仮想空間は宇宙よろしく膨張を余儀なくされ、私たちは大いなる歴史・アーカイヴに寄り添うことでいつの間にか未来を迎えることになる。それまでおよそ30年ほど、私たちはこの不毛の時代を生き抜かなくてはならない。それを毛嫌いすればするほど、その期間は長引くだろう。あなたがこの世の中をどうにかしたいと思うのであれば、立ち止まり蹲ってなるべく何もせずに生きるべきである。それがこの不毛な世紀を乗り越える唯一の術である。いわばこの精神的氷河期は、人類にとって二度目のルネッサンスなのである。我々は補完され、そして再生する。。